犬や猫の膀胱は、尿路結石が原因でトラブルが発生することが多いものの、ときには膀胱腫瘍(特に移行上皮癌)を引き起こすケースもあります。膀胱腫瘍は症状だけでは判断が難しく、診断が遅れるとリンパ節や全身の臓器に転移するリスクがあります。そのため、早期の発見と適切な対応が求められます。
今回は犬と猫の膀胱腫瘍(移行上皮癌)について、特に診断方法や治療方法に焦点を当ててご紹介します。
膀胱腫瘍(移行上皮癌)とは
膀胱腫瘍は犬でよく見られる腫瘍で、そのほとんどが移行上皮癌です。移行上皮癌は、膀胱三角と呼ばれる膀胱から尿道への移行部分に発生することが特徴的です。
この病気は、犬ではすべての腫瘍のうち約2%を占める一方で、猫では0.07〜0.18%の発生率と報告されています。
症状
膀胱腫瘍(移行上皮癌)を引き起こすと、血尿や頻尿など、泌尿器に関係する症状が現れます。
原因
膀胱腫瘍(移行上皮癌)の明確な原因はまだ解明されていないものの、特に高齢のメス犬に多く見られる傾向があります。
最近の研究によると、膀胱腫瘍(移行上皮癌)を発症した犬の多くで、BRAFという遺伝子の変異が確認されることが報告されています。
診断方法
まずは腹部エコーで膀胱の粘膜の状態を観察し、明らかに腫れている箇所を確認します。次に、カテーテルを尿道から膀胱へ挿入し、膀胱の粘膜組織を吸引・採取します。その組織を用いて行う組織生検と、BRAF遺伝子変異の検査によって、正確な診断がほぼ確実に可能です。
これらの方法は、開腹手術で膀胱を切り取ることなく、非侵襲的(生体を傷つけない)に診断することができます。
治療方法
当院では今まで、膀胱そのものを全摘出し、腎臓から膀胱へとつながる尿管を外陰部につなぎ合わせることで、新しい尿の出口をつくっていました。常に尿が漏れる状態となり、おむつの交換が必要になるなど、飼い主様にとって大きな負担が生じてしまいます。それだけでなく、外陰部を衛生的に保つことが難しく、手術の難易度が高いことも問題点として挙げられていました。
こうした問題を解決するために、当院では新たな治療法を取り入れています。
カテーテルで採取した組織に対して、抗がん剤感受性検査(どの抗がん剤がよく効くかを調べる検査)とHER2遺伝子(がん細胞の増殖に関わる遺伝子)変異の検査を行います。その結果に応じて適切な抗がん剤を選択するとともにHER2阻害薬(分子標的薬)を使用することで、格段に生存期間が延長しています。
抗がん剤には、トセラニブやミトキサントロンといった成分を含むものを使用する場合があります。また、HER2阻害薬はラパチニブという成分を含み、腫瘍の増殖を抑える効果が期待できます。
当院では、もともと半年ほどしか生存が期待できない症例でも、手術をせずに薬だけで1年以上生存しているケースも多く見られます。
そのほかにも、手術や抗がん剤などが適用できない場合やコスト面で問題がある場合は、非ステロイド性抗炎症薬(ピロキシカムやフィロコキシブ)を使用することがあります。
予防法やご家庭での注意点
膀胱腫瘍(移行上皮癌)の予防法は、残念ながらありません。
侵襲的な手術を実施した場合は痩せやすいため、術後はカロリーを計算し、あまり食べないときはフードをふやかして与えてもよいでしょう。また、フードをきちんと食べているかどうかを毎回確認することも重要です。
分子標的薬の場合は体重や元気、食欲の低下は稀ですが、再発あるいは転移する可能性もあるため、様子に変化がないかをチェックしましょう。
まとめ
膀胱腫瘍(移行上皮癌)は、特に高齢の犬で多い泌尿器の腫瘍です。この病気は尿の変化から気づくことが多い一方で、その原因が腫瘍かどうかは詳しく検査を行わないと判断できません。そのため、愛犬や愛猫に少しでも気になる様子が見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。
また当院では、QOL(生活の質)を高め、生存期間が長くなるような治療法を取り入れています。治療法にご不安やご不明点がある場合には、ぜひ当院の獣医師までお気軽にご相談ください。
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<参考文献>
Lower Urinary Tract Neoplasia – PMC (nih.gov)
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