FIPとは若い猫に特有の病気で、猫伝染性腹膜炎とも呼ばれます。この病気は、以前はとても致死率が高く、発症したらほぼ100%亡くなってしまうともいわれていました。しかし、最近ではさまざまな治療薬が開発されていて、治療が可能になってきています。実際に当院でも使用していますが、早期に発見できた場合、約90%は命を救うことができています。
今回は猫のFIPについて、基本的な情報とともに、新たな治療方法などを詳しく解説します。
FIPの症状と特徴
FIPは症状によって、「滲出型(ウェットタイプ)」、「非滲出型(ドライタイプ)」、あるいは2つが混ざった「混合タイプ」に分けられます。
<ウェットタイプ>
胸水や腹水がたまることが特徴的です。若い猫に多い傾向があり、腹水(お腹にたまった水)、黄疸(粘膜が黄色くなる状態)、元気・食欲の消失といった症状が現れます。
<ドライタイプ>
肝臓や腎臓などの臓器に肉芽腫(こぶのようなもの)をつくることが特徴的です。年齢にあまり関係なく発生し、虹彩(目の構造物)のできもの、神経症状(発作、震え)、元気・食欲の消失といった症状が現れます。
診断方法
FIPでは、以下の検査を実施して診断します。
<血液検査>
内臓や全身の状態を確認するために行います。特に高たんぱく、高グロブリン、低アルブミン、高SAA(炎症マーカー)では、慢性炎症やウイルス疾患などが疑われ、上記のような症状が認められた場合、FIPも疑います。また、α1AGと呼ばれる急性炎症マーカーを測定する場合もあります。
<エコー検査>
腹水や肉芽腫の有無を画像でチェックします。
<抗体検査>
腹水や血液を採取して、猫コロナウイルス(FCoV)の抗体価を測定します。ただし、この数値が高くなっているからといって、FIPと診断することはできません。
<遺伝子検査>
腹水や胸水、眼房水(目の中にある水)、脳脊髄液などを採取して、猫コロナウイルスの遺伝子を検出します。PCR検査だけでは判断できませんが、健康であれば検出されない検体(脳脊髄液や胸水・腹水など)から遺伝子が見つかった場合は、FIPの可能性が高いと考えられます。
特に抗体検査や遺伝子検査で注意すべきなのが、FIPウイルス(FIPV)ではなく、猫コロナウイルスをターゲットにしているということです。
猫コロナウイルスは健康な猫でも感染していることが多いのですが、ストレスや免疫状態の異常といったきっかけでFIPウイルスに変異することがわかっています。
そのため、血液検査やエコーなどの結果もあわせて総合的に判断する必要があります。
治療方法と経過
前述したように、昔はFIPの治療法として有効なものはありませんでしたが、今ではさまざまな選択肢があります。
<抗ウイルス薬>
当院では、モルヌピラビルやGS-441524といったお薬を使用しています。
<免疫増強剤>
インターフェロン製剤を使って、免疫力を高めることもあります。
<対症療法>
補助的ではありますが、元気・食欲がない場合にはステロイドを、脱水があった場合には補液を併用するケースもあります。
当院では、皮下注射および錠剤の抗ウイルス薬を用意しております。治療のたびに来院する必要はありませんが、定期的に状態を確認する必要があります。治療への反応がいい猫、もしくは軽症で早めに気づけた猫では、1週間以内に元の元気な状態まで回復することがほとんどです。
一方で、来院時から重症のケースや、ドライタイプのFIP(特に脳神経症状が出ている猫)は反応が悪く、こうした治療を施しても命に関わる場合もあります。また、抗ウイルス薬による治療は、84日間を目安としています。
予防と注意点
FIPは猫コロナウイルスの感染と変異が原因となりますが、猫コロナウイルスは身近にありふれているウイルスであるため、どのような猫でも少なからずFIPを発症する可能性があります。
また、猫白血病などのようにワクチンが開発されているわけでもありません。そのため、できるだけストレスや免疫状態を良好に保つことが重要です。
ほかにも、早期発見・早期治療も大切です。若いころから1年に1回は定期的に血液検査を行い、タンパクやグロブリン(タンパクの一種)のチェックをすると良いでしょう。元気や食欲が改善しない場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
まとめ
FIPは致死率が高い病気として、長年にわたって猫やその飼い主様を苦しめてきました。しかし、最近では治療薬が開発され、当院でも多くの猫を救うことができています。FIPと診断されても諦めることなく、愛猫にできる限りのことを尽くしてあげましょう。
<参考文献>
東京都調布市の動物病院なら『タテイシ動物病院』
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