愛犬が「今朝までは普通に歩いていたのに、急に立ち上がれなくなった」「後ろ足を引きずっているけれど、どこか痛めたのかもしれない」といった突然の変化を目の当たりにすると、飼い主様は驚きと不安でいっぱいになることと思います。
犬の「立てない」「歩けない」といった症状は、椎間板ヘルニアを含む神経系の病気を引き起こしている可能性があります。また、「椎間板ヘルニア＝手術が必要」と思われがちですが、すべての症例で手術が必要になるわけではありません。早期に診断し、症状に合わせた治療を行うことで、内科的なアプローチでも改善が期待できるケースもあります。
そこで今回は、犬の椎間板ヘルニアについて、症状や診断・治療方法、当院での診療体制や治療方針、実際の症例も交えて解説します。
犬の椎間板ヘルニアとは？
椎間板ヘルニアとは、椎骨と椎骨の間にある「椎間板」という軟骨組織が本来の位置から飛び出し、脊髄神経を圧迫することで、痛みや麻痺などの神経症状が現れる病気です。
特にミニチュア・ダックスフンドやウェルシュ・コーギーといった軟骨異栄養性犬種に多くみられる傾向がありますが、その他の犬種でも発症することもあります。また、加齢による椎間板の変性や繰り返されるジャンプ、肥満なども椎間板に過剰な負担をかけ、発症のリスクを高める要因となります。
症状の目安
椎間板ヘルニアの症状は、障害の進行度によって大きく5つのグレードに分類されます。グレードごとの特徴は以下の通りです。
・グレード1：痛みがあるが、歩行には支障がない
・グレード2：麻痺が始まり、ふらつきがみられるが、歩行は可能
・グレード3：後ろ足が動かなくなるが、痛覚は残っている
・グレード4：痛覚が鈍くなり、自力で立ち上がることや排尿が困難になる
・グレード5：完全麻痺となり、排尿・排便も困難になる
また、椎間板ヘルニアと診断されても、必ずしも手術が必要になるとは限りません。特にグレード1〜3の段階では、内科治療によって回復が期待できるケースが増えてきています。近年の獣医療の進歩により、グレード3でも手術を回避できた例が多く報告されています。
一方で、グレード4〜5に進行してしまうと、手術が必要になる可能性が高まります。そのため、早期に異変に気づき、適切な検査と治療を受けることが非常に重要です。
診断方法
椎間板ヘルニアの診断では、まず神経学的検査やレントゲン検査によっておおまかな病変の位置や重症度を把握します。しかし、確定診断と治療方針の決定には、より詳細な情報が得られるMRI検査が必要不可欠です。
MRIでは、椎間板の突出の位置や程度、脊髄の圧迫具合などを立体的に把握できるため、より正確な診断と治療計画の立案が可能になります。
なお、当院では高度な画像検査を必要とする場合、外部のMRI施設と連携し、検査を委託しています。また、検査結果に基づき、以下のような柔軟な対応が可能です。
・緊急性が高く、外部施設でそのまま手術を受けるケース
・内科治療が適応と判断され、検査後に当院に戻って治療を継続するケース
外部施設に依頼する場合でも、正確な診断結果をもとに治療を行える体制が整っているため、飼い主様にも安心してご相談いただけます。
治療方法
椎間板ヘルニアの治療は、犬の状態やグレードに応じて、内科的治療と外科的治療のいずれか、または組み合わせを検討します。
＜グレード1〜3の場合＞
主に内科治療を行います。痛み止めや消炎剤といった薬の投与、安静管理、リハビリテーションを組み合わせることで回復が見込まれます。
＜グレード4〜5の場合＞
神経症状が重度なため、手術が必要になるケースが多くなります。ただし、犬の年齢や全身状態、飼い主様のご希望なども考慮し、治療方針は丁寧に相談させていただきます。
ただし、グレードが高い場合でも、治療の選択肢が手術だけとは限りません。当院では、スタッフが連携しながら愛犬の状態に合わせた最適な治療をご提案しています。
手術に関して、ご不安やご不明点などございましたら、お気軽にご相談ください。
実際の症例｜グレード4からの回復例も
重度の椎間板ヘルニアでも、根気強く治療を継続することで改善が見られるケースがあります。
実際に当院で診察した症例の中には、グレード4と診断された犬が、飼い主様のご希望により手術ではなく内科治療とリハビリを選択し、約2か月で歩行が可能になるまで回復した例もあります。
この症例では、薬の投与に加えて日常生活での安静を徹底し、段階的なリハビリも継続しました。回復までの道のりは決して簡単ではありませんでしたが、「諦めない治療」を続けた結果、犬と飼い主様が納得できる改善につながりました。
症状の重さに不安を感じることもあると思いますが、状態に合わせた治療を丁寧に積み重ねていくことで、回復に向かう可能性は十分にあります。どうか一人で抱え込まず、いつでも当院にご相談ください。
回復を支えるリハビリと東洋医学の力
当院では、西洋医学に基づく治療だけでなく、鍼灸などの東洋医学を組み合わせたリハビリテーションにも力を入れています。こうしたアプローチを取り入れることで、より幅広い角度から犬の回復を支えることができます。
リハビリによって期待できる効果には、以下のようなものがあります。
・筋肉のこわばりをやわらげ、動きをスムーズにする
・神経の再生や機能の回復を後押しする
・再発予防のために、体の使い方や姿勢を見直す
また、併設のトリミング施設やペットホテルでは、犬の体調や歩き方の変化に日常的に気づける環境が整っており、早期発見や早期の対応にもつながります。
まとめ｜早期発見と相談が愛犬を救う第一歩
犬の椎間板ヘルニアは、状態に応じて適切な治療を行えば、回復が期待できる病気です。特にグレード3までであれば、手術をしなくても改善する可能性もあります。
「もう手術しかないのかもしれない…」と不安に思われている飼い主様も、まずは一度当院までご相談ください。当院では、外部のMRI施設との連携による柔軟な診断体制と、東洋医学を取り入れた総合的なリハビリサポートにより、犬と飼い主様の気持ちに寄り添った治療をご提案しています。
何かわからないことがありましたら、お気軽にご相談ください。
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