猫の腸管型リンパ腫は腸に腫瘍ができるため、食欲不振や嘔吐、下痢などの消化器症状がよく現れることが特徴的です。しかし、このような症状は他の病気でも見られるため、迅速で確実な診断と適切な治療が求められます。
今回は猫の腸管型リンパ腫について、当院での診断方法や治療方法だけでなく、実際の事例についてもご紹介します。
腸管型リンパ腫とは
腸管型リンパ腫は腸(主に小腸)にできるリンパ腫で、中高齢の猫によく見られます。また、リンパ腫はリンパ球の種類によってT細胞性とB細胞性、細胞や組織の様子によって高グレード(高悪性度)と低グレード(低悪性度)に分かれます。低グレードでは比較的予後が良い一方で、高グレードの腸管型リンパ腫では、中央生存期間が30~60日前後と短いことが知られています。
症状
腸管型リンパ腫を引き起こすと、腸管に腫瘍ができることにより、嘔吐や食欲不振といった消化器に関わる症状が長期にわたって見られます。
ほかにも、消化管から栄養をうまく吸収できなくなることで、元気や食欲がない、体重が減る、動きたがらない、などの変化が現れることもあります。
原因
具体的な原因はまだ完全には解明されていませんが、以下のような要因が関係している可能性が考えられます。
・慢性的な炎症
・遺伝的要因
・環境要因や食生活
・ウイルス感染 など
診断方法
腸管型リンパ腫を診断するには、エコー検査が必要不可欠です。おなかにエコーを当て、粘膜の様子や腸の動き、リンパ節の大きさ、しこりの有無などを確認します。しこりが大きくなっていると、おなかを触診したときにさわれるケースもあります。
リンパ腫が疑われる場合は細胞診(針を刺して細胞の一部を観察する検査)や生検検査(組織の一部を観察する検査)に進み、病理組織検査や遺伝子検査に出すことで診断することができます。
また、腸管型リンパ腫は犬でよく見られる多中心型リンパ腫のように、体表には変化が現れないため、より画像診断が重要になります。
治療方法
腸管型リンパ腫の治療は、多剤併用の抗がん剤治療が主体になります。その結果、食欲が増して元気になるケースも見られています。リンパ腫は治療が難しいケースが多いため、基本的には完治する可能性は低いのですが、抗がん剤治療や対症療法を行うことで、猫の生活の質を維持することができます。
また、根本的な治療には結びつきませんが、腸管が完全に閉塞している場合はその部分を切り取り、正常な腸管同士をつなげる必要があります。
事例紹介
実際の治療の流れをイメージしていただくためにも、当院で治療を行っている症例をご紹介します。
10歳の去勢済みのオス猫で、来院1週間前から食欲や元気がなくなり、2日前からフードを吐くようになったとのことで当院にいらっしゃいました。数か月前と比べて体重が1kg以上減っていたのも気になり、エコー、血液検査で精査を行うことを提案しました。
触診ではおなかにしこりを触知でき、エコーでは小腸と大腸の境目に大きなしこり(42×63 mm)が、左腎と胃の間にも同様のしこり(23×30 mm)が確認できました。
腸管型リンパ腫が疑われたため、翌日に鎮静下で細胞診と遺伝子検査を行いました。その結果、B細胞性高グレード腸管型リンパ腫であることが判明しました。
その後、NCSUプロトコールという方法の抗がん剤治療を開始しました。
治療から2カ月までは認められていた腫瘍も消失し元気食欲、一般状態がすべて改善しました。
2カ月以上経ってからリンパ節が徐々に大きくなり、元気や食欲もさらに低下したため、抗がん剤の種類を再検討することにしました。抗がん剤感受性検査を実施したところ、シタラビン、アクチノマイシンDという抗がん剤がよく効くことがわかったため、DMACプロトコールという方法に変更し、現在も治療を続けています。
このように当院では様々な検査を組み合わせながらその子に合った診断、治療ができるように努めています。
予防法やご家庭での注意点
腸管型リンパ腫は腫瘍が大きくなっている可能性もあるため、定期的な健康診断の受診が重要です。
また、ご家庭ではいつもと同じ量のフードを与えているのに残していないか、活発に動き回っているか、嘔吐が続いていないか、などをよく観察しましょう。ほかにも、不調が1週間ほど続くようであれば速やかに動物病院を受診することが大切です。
まとめ
腸管型リンパ腫は、中高齢の猫に多い悪性腫瘍(がん)です。元気や食欲の低下は、いわゆる「年のせい」ではないケースもあるため、症状が続くようであれば早めに獣医師の診察を受けましょう。また、検査を実施することで、どのような病気があるのか、腸管型リンパ腫であれば高グレードなのか低グレードなのか、T細胞性か、B細胞性かを判別することで、適切な治療を進めるためのプランを立てることができます。
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