犬や猫の慢性腸症について

犬や猫の慢性腸症について

犬や猫の下痢はよく見られる症状のひとつですが、その裏に「慢性腸症」という病気が隠れていることがあります。この病気は、下痢や体重減少が長期化し、命に関わる状態になることもあるため、注意が必要です。また、慢性腸症の中には腸管型リンパ腫というがんが隠れているケースもあるため、正確な診断と適切な治療が重要です。


今回は犬や猫の慢性腸症について、診断方法や治療方法を中心に解説します。


犬や猫の慢性腸症とは

慢性腸症とは、3週間以上続く下痢や食欲不振、体重低下などの消化器症状を特徴とする病気です。この病気にはさまざまな原因があり、治療の反応によって、以下の4種類に分類されます。


<食事反応性腸症(FRE)>

食物繊維で改善する下痢、もしくは低脂肪食で改善する下痢、アレルギー食で改善する下痢を食事反応性腸症と呼びます。


<抗菌薬反応性腸症(ARE)>

腸内の細菌バランスが崩れ、抗菌薬を飲んでいるときのみ改善するタイプです。つまり、抗菌薬を辞めてしまうとすぐに下痢が再発してしまうものを抗菌薬反応性腸症と呼びます。


<ステロイド免疫抑制剤反応性腸症(IRE)>

腸に慢性的な炎症が起こり、ステロイドもしくは免疫抑制剤との併用によって改善する下痢です。「炎症性腸疾患(IBD)」とも呼ばれます。


<治療抵抗性腸症(NRE)>

上記の治療などに反応せず、改善が難しいタイプです。


慢性腸症は完全に治ることが難しい病気で、生涯にわたって管理が必要になるケースがほとんどです。また、腸管型リンパ腫のような悪性疾患が潜んでいる可能性があったり、悪性腫瘍がなくとも改善が難しい子および低アルブミン血症が改善されない子は命に関わったりする危険性が高いです。診断には慎重さが求められます。


症状

慢性腸症の症状は、主に以下が挙げられます。


  • ・長期間続く下痢(軟便から水様便まで、程度はさまざまです)
  • ・食欲不振
  • ・体重減少

これらの症状は一見、一般的な消化器疾患と区別がつきにくいため、注意深い観察が必要です。特に、体重がどんどん減少する、血液検査でのアルブミン(タンパクの一種)が低い場合は要注意です。


原因

慢性腸症を引き起こす原因は解明されていませんが、以下の要因が関係していると考えられています。


  • ・遺伝的要因
  • ・腸内細菌叢の変化
  • ・免疫の異常

また、特定の犬種で予後が悪い傾向が見られることもあり、柴犬では他の犬種よりも症状が重篤化しやすい場合があります。


診断方法

慢性腸症の診断には時間を要する場合もありますが、根本原因を突き止めることが最も重要です。


<初診でのアプローチ>

初めて下痢で来院する場合、まずは一般的な下痢治療を行います。例えば、消化器に優しい食事への切り替えや、腸内細菌バランスの崩れによっては抗生物質を処方します。この時点で改善が見られない場合は、他の薬を使用してみたり、さらに検査を追加したりします。


<感染症の除外>

慢性腸症以外の可能性を排除するために、便のPCR検査を行います。ウイルスや細菌、原虫などの感染症が原因でないかを調べることで、適切な治療方針を立てることができます。


しかし、これらの一般的な治療を行っても下痢が治らない、再発する場合は慢性腸症を疑います。その際は以下の検査を総合的に行い、診断を下します。


<超音波検査(エコー)>

腸の粘膜構造に異常がないかを確認します。


<血液検査>

血中のタンパク質やアルブミン値、コレステロールなどを確認し、栄養素の低下がないかを調べます。これらの値が低下している場合、腸の吸収不良、もしくは腎臓からの排泄(腎不全)、肝臓からの合成ができない(肝硬変レベル)などが疑われます。腸が原因がなのか、腎臓、肝臓が原因なのかは血液検査およびエコーで総合的に判断します。


治療方法

慢性腸症の治療では飼い主様と相談の上、犬や猫に最適な治療方法を選択します。治療には以下の選択肢があります。


<療法食による治療>

  • ・繊維性の食事
  • ・アレルギー対応の食事
  • ・低脂肪の食事

<試験的治療>

  • ・抗生物質:腸内細菌のバランスを整えます。
  • ・ステロイド・免疫調整薬:腸内の過剰な炎症を抑えます。

ステロイドに反応しない場合には、「副作用の少ない抗がん剤(クロラムブシル)」などを使用することもあります。


<生検(内視鏡生検・全層生検)>

生検は腸管型リンパ腫を否定し、炎症の原因となっている細胞成分を特定するための重要な検査です。当院では、飼い主様にリスクを十分説明した上で、生検の実施を提案しています。


慢性腸症は完治が難しく、生涯管理が必要な病気です。症状が改善しても再発することが多いため、飼い主様には継続的な治療が必要であることを説明します。また、慢性腸症は犬や猫でも一定数(10%程度)の確率でリンパ腫が隠れている場合があるため、ステロイド治療を始める前に生検で診断を確定させることが重要です。


猫の腸管型リンパ腫についてはこちらから


予後

いずれかの治療に反応した場合、症状が改善し、体重が増加していく傾向が見られます。安定している場合は、長期間健康を維持できるケースも少なくありません。しかし、治療に反応しない場合や慢性腸症が進行するケースでは予後が悪く、命に関わることもあります。特に、柴犬においては予後が悪い傾向があり、来院から半年以内に命を落とすケースも見られます。


そのため、症状の進行を抑えるためにも、早期に診断を受けて適切な治療を始めることが重要です。


予防法やご家庭での注意

慢性腸症は予防が難しい病気です。犬によく見られる下痢は軽視されがちですが、場合によっては命に関わることもあるため注意が必要です。特に、腸管型リンパ腫が関与している可能性もあるため、見逃さないようにしましょう。


もし下痢が長期間続き、治らない場合は、慢性腸症の可能性を考え、早めに精密検査を受けることをお勧めします。


まとめ

慢性腸症は下痢などの消化器症状が長期間続き、命に関わることもある病気です。飼い主様が早期に気づき、適切な診断と治療を受けることで、愛犬や愛猫の生活の質を大きく改善できる可能性があります。そのため、下痢が続く場合は、放置せず早めに動物病院を受診することが大切です。


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