肥満細胞腫は、犬や猫においてよく見られる悪性腫瘍(ガン)の1つです。この腫瘍が発生すると、皮膚にポコッとしたしこりが現れます。また、皮膚の腫瘍にはさまざまな種類があるため、動物病院で細胞の検査を行い、的確な診断をしていくことが必要です。また、内臓にも肥満細胞腫が見られることがあるため、皮膚だけでなく全身の健康状態を確認することも重要です。
今回は犬と猫の肥満細胞腫について、当院での診断・治療方法を中心に解説します。
肥満細胞腫とは?
肥満細胞腫とは、肥満細胞という炎症や免疫に関わる細胞が無秩序に増えることで発症する悪性腫瘍です。この腫瘍は、中高齢の犬や猫によく発症します。また、皮膚にできる腫瘍の中で、犬では約20%ほど、猫では約18%ほどが肥満細胞腫であると報告されています。
症状
肥満細胞腫を引き起こすと、皮膚にしこりや赤み、脱毛などの症状がよく見られます。犬ではおなか周りや手足に、猫では顔(額や耳など)に現れることが一般的です。
ほかにも、猫では腸や内臓器に肥満細胞腫が形成されることも多く、肥満細胞から分泌されるヒスタミンやヘパリンの影響により、消化管潰瘍ができ、下痢や嘔吐などの消化器症状が現れることがあります。また、血が止まりにくくなるといった症状も見られることがあります。
原因
肥満細胞腫が発生する正確な原因はまだ解明されていませんが、犬や猫においてはc-kit遺伝子(細胞増殖に関わる遺伝子)の変異が関与している可能性があるのではないかと考えられています。
診断方法
肥満細胞腫の診断は、細胞の様子を観察することがポイントになります。具体的には、「細胞診」という検査方法を用いて、しこりに細い針を刺し、その一部を吸引して採取します。これにより、腫瘍がどのような種類の細胞から発生しているかを詳しく調べることができます。この検査は院内で行うことができるため、飼い主様を長くお待たせすることなく診断を下すことが可能です。
肥満細胞腫の場合、ヒスタミンの粒を含んだ特徴的な細胞が認められます。ただし、腫瘍の悪性度の判断や治療方針を決定するためには、病理検査や遺伝子検査が必要となります。
治療方法
肥満細胞腫は、皮膚型でも内臓型でも基本的に手術が必要です。肥満細胞腫は悪性腫瘍であるため、しこりが丸く、正常な組織との境目がはっきりしているように見えても、実際には腫瘍細胞が正常な組織に広がっている可能性があります。
このような理由から手術時には再発を防ぐため、腫瘍細胞が少しでも残らないように、通常より広めの範囲を確保して腫瘍を切除(マージン)することが重要です。
ただし、耳や額など皮膚に余裕がない箇所や複数回に分けて手術が必要な箇所、あるいは内臓型で全身に転移のリスクが高い場合には、十分なマージンを確保することが難しいことがあります。そのようなケースでは、可能な限り広く腫瘍を切除するとともに、適切な抗がん剤を使うために、全件で遺伝子検査(c-kit遺伝子検査)を行っています。
c-kit遺伝子が変異しているかどうかで、使う抗がん剤が変わります。
・c-kit遺伝子変異がない場合:術後にはトセラニブという分子標的薬、もしくはビンブラスチンという抗がん剤やステロイドを使用します。
・c-kit遺伝子変異がある場合:術後にはイマチニブという分子標的薬を使用することが多いです。
これらの薬以外にも、CCNU(海外薬であるロムスチン)やACNU(ニムスチン)を使用することもあります。当院では、これらの薬をいつでも使用できるように常に準備を整えており、飼い主様に豊富な治療の選択肢をご提案することができます。
予後
皮膚型のしこりが手術で取り切れていれば、予後は良好です。ただし、皮膚型でも悪性度が高く、手術で取り残しがある場合は、平均生存期間が6ヶ月ともいわれています。しかし、腫瘍が皮膚の一部分にしかない場合、転移がなければ手術による根治率は85%と高いことが知られています。一方で、内蔵型の場合は進行度は非常に早く、手術しても数か月というケースも多いため予後に注意が必要です。そのため、早期に抗がん剤治療を開始する必要があります。
予防法やご家庭での注意点
皮膚の表面にしこりが見られる場合、肥満細胞腫の可能性もありますが、他の腫瘍であることも考えられます。肥満細胞腫は特に明確な特徴がないため、ご家庭で判断するのは難しい病気です。そのため、皮膚にしこりを見つけた際には、早めに動物病院で検査を受けることを推奨します。
まとめ
肥満細胞腫は、犬や猫の皮膚によく見られる悪性腫瘍です。皮膚の一部分にだけしこりがある場合は、手術で切除できれば、その後再発することなく健康に過ごせることが多いです。そのため、愛犬や愛猫の皮膚に気になるしこりを見つけた際は、早めに動物病院を受診することが大切です。
<参考文献>
Diagnosis, Prognosis and Treatment of Canine Cutaneous and Subcutaneous Mast Cell Tumors – PubMed (nih.gov)
Mast Cell Tumors in Cats: Clinical update and possible new treatment avenues – Carolyn Henry, Chamisa Herrera, 2013 (sagepub.com)
(PDF) A Retrospective Study in 1,070 Feline Tumor Cases of Japan. (researchgate.net)
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