犬の皮膚型リンパ腫について

犬の皮膚型リンパ腫について

皮膚型リンパ腫は犬の皮膚に発生する悪性腫瘍の一つで、膿皮症などの皮膚炎と症状が似ているため、診断が難しい病気です。当院では、こうした診断の難しい病気にも迅速かつ的確に対応できるよう、独自の検査体制を整えています。


今回は犬の皮膚型リンパ腫について、診断・治療方法、当院での実際の症例などをご紹介します。


皮膚型リンパ腫とは

皮膚型リンパ腫はリンパ腫の一種です。リンパ腫は、リンパ球という免疫細胞の腫瘍化によって引き起こされますが、皮膚型では皮膚の表面に病変をつくることが特徴的です。


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症状

皮膚型リンパ腫の症状は、膿皮症とよく似た皮膚炎として現れることが多く、赤みやただれ、かゆみを伴います。進行が遅い場合、犬の元気や食欲に影響を与えないことが多いですが、進行が早い場合には食欲や元気の低下が見られることもあります。このような症状の進行具合によって、病気の重症度を判断することが可能です。


原因

犬が皮膚型リンパ腫を引き起こす詳しい原因は解明されていません。しかし、この病気は中高齢の犬によく見られ、全体のリンパ腫の3~8%を占めるとされています。


診断方法

皮膚型リンパ腫は一見すると「治療に反応しない膿皮症」のようで、見た目や一般的な検査だけでは難しいことが多いです。皮膚のびらん(赤くただれたような状態)が見られる場合は最初から皮膚型リンパ腫を疑うこともあります。


そのため、膿皮症と診断されて治療を続けていても一向に症状が改善しなければ、まれに皮膚型リンパ腫を引き起こしている可能性もあるため、注意が必要です。当院では中高齢の犬で皮膚症状の改善がない場合に、以下のような検査を実施します。


<細胞診>
皮膚表面から細胞を採取し、リンパ球系細胞の腫瘍性増殖がないかを確認します。


<皮膚生検>
鎮静下で組織を採取し、詳しい病理検査を行います。


治療方法

皮膚型リンパ腫に対しては、単一の抗がん剤やステロイドを併用して治療を進めます。最新の研究では、皮膚型のT細胞性リンパ腫に対してLaverdiaという分子標的薬が非常に有効である、という事例も報告されています。当院でもこの薬の輸入・導入を開始したため、治療の選択肢が広がりました。


また、最初に使っていた抗がん剤が効かなくなってきたときには、レスキュー療法といって、別の抗がん剤による代替療法を選択します。


抗がん剤の副作用として、消化器症状(下痢、嘔吐、食欲不振)や血液細胞の変化(好中球数の低下、貧血、血小板数の低下)、代謝臓器への影響(腎不全や肝酵素上昇)などが発生します。


「抗がん剤」という名前を聞くと、副作用を心配し治療を躊躇する方が多いのですが、犬では人間のように髪の毛が抜けたり、強い吐き気が続いたりすることはあまりなく、副作用が起こる可能性は低いです。


予後

皮膚型リンパ腫の特徴として、無治療であっても、進行の早いものと遅いものに分かれます。進行の早いものだと数カ月で命を落としてしまう一方で、遅いものだと1年以上症状が現れない場合もあります。適切な抗がん剤治療を行うことで数年、転移なく温存できる場合があります。


当院の事例

15歳8カ月のトイプードル(避妊済みのメス)を例に挙げます。この子は僧帽弁閉鎖不全症で治療中でしたが、2024年5月10日に腹部の皮膚炎を理由に来院されました。当初は膿皮症を疑い、トリミングサロンでのシャンプーとともに、抗生剤と炎症止めを処方しましたが改善が見られませんでした。そこで皮膚の細菌培養・抗生物質感受性検査を依頼し、効果のある抗生剤に切り替えましたが治りきらない状態が続きました。


2024年8月、皮膚症状に改善が見られないことから、膿皮症以外の病気の可能性を考慮し、皮膚の細胞診検査を行いました。その結果、皮膚表面から多数のリンパ球が採取され、皮膚型リンパ腫の可能性が疑われました。


それにより、診断方針を見直し、皮膚の状態をさらに詳しく調べるため、鎮静下で皮膚生検を実施しました。生検の結果、この症例はT細胞性高グレード皮膚型リンパ腫であることが判明しました。


2024年9月9日から、ACNU(ニムスチン、3週ごとの静脈点滴)とプレドニゾロン(ステロイド)の併用療法を開始しました。皮膚型リンパ腫の治療に切り替えてからは、皮膚の状態が改善し、現在では抗がん剤を使用しながらも、元気や食欲といった全体的な健康状態が良好で快適に過ごせています。


予防法やご家庭での注意点

皮膚型リンパ腫は膿皮症のような見た目であることも多いですが、抗生剤では治らない病気です。皮膚の炎症がひどく、皮膚症状が改善しない場合には、細胞診や生検といった詳しい検査の実施をお勧めします。


まとめ

皮膚型リンパ腫は、ほかの皮膚疾患と誤診されやすい悪性腫瘍です。もし、治療を続けていても皮膚の炎症がなかなか改善しない場合は、詳しい検査を受けることを検討しましょう。


<参考文献>

Efficacy of verdinexor for the treatment of naïve canine epitheliotropic cutaneous T‐cell lymphoma: An open‐label pilot study – Vlodaver – 2024 – Veterinary Dermatology – Wiley Online Library


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