愛犬が急に元気をなくしたり、歯茎が白くなっていたりする様子に気づいて不安を感じたことはありませんか?そうした体調の変化は、日常的な不調のように思えるかもしれませんが、実は命に関わる重大な病気のサインである可能性もあります。
なかでも「免疫介在性溶血性貧血(IMHA)」という病気は、進行が非常に速く、早期に適切な治療を行わなければ数日のうちに命を落としてしまう危険性もある非常に重篤な疾患です。
そこで今回は、免疫介在性溶血性貧血(IMHA)という病気について、症状や診断方法、治療方法、当院での実際の症例などをご紹介します。
犬の免疫介在性溶血性貧血(IMHA)とはどんな病気?
免疫介在性溶血性貧血(IMHA)とは、犬自身の免疫システムが誤作動を起こし、本来なら身体に必要な赤血球を敵とみなして攻撃してしまうことで起こる貧血の一種です。免疫が過剰に反することで、赤血球が急激に壊されてしまい、体の中で酸素を運ぶ力が失われていきます。
この病気は犬だけでなく猫でも起こることがありますが、特に犬では重症化しやすく、進行も非常に早い傾向があります。昨日まで元気に過ごしていた犬が、数日以内に重度の貧血を起こし、命に関わるほど衰弱してしまうことも珍しくありません。
また、IMHAの致死率は50〜70%とも報告されており、非常に高い数字です。これは、貧血に加えて血栓(血の塊)が血管を詰まらせる「血栓塞栓症」を併発するケースが多いためです。
こうした危険性の高い病気であるからこそ、早期の発見と迅速な治療が非常に重要です。
症状
IMHAの初期症状は、単純な体調不良と似ていることが多いため、見逃されやすい特徴があります。以下のような変化が見られる場合は、注意が必要です。
・歯茎、目、皮膚の色が白っぽい
・なんとなく元気がない
・食欲が落ちている
・下痢や嘔吐が見られる
こうした症状が現れたとき、「いつもの不調かな」と様子を見たくなる気持ちはあるかもしれませんが、数日で急激に症状が進行する可能性があるため、早めの受診が大切です。
さらに進行すると、貧血や黄疸のサインが目に見えて現れることがあります。より強く歯茎や舌、白目の部分が白っぽく見えたり、黄色っぽく変色してきたりすることもあります。重症になると、以下のような命の危険を示す深刻な変化が現れます。
・呼吸が荒くなる
・ふらついて歩けない
・自力で立てない
このような状態になる前に、少しでも「いつもと違う」と感じたら、すぐに動物病院を受診することが命を守るために必要です。
診断方法
IMHAは、ひとつの検査だけで確定診断ができる病気ではありません。いくつかの検査を組み合わせて総合的に判断していく必要があります。
まずは、歯茎や舌、粘膜の色を目視し、貧血の兆候がないかを確認します。白っぽい場合は、体内の赤血球が減少しているサインです。その上で、血液検査を行い、以下のような項目をチェックしていきます。
・ヘマトクリット(赤血球の濃度)
・赤血球数の減少
・ヘモグロビンの値
・黄疸を示すビリルビン値
・炎症の指標であるCRPなど
さらに、「血液塗抹検査」という特殊な検査を行い、赤血球が自己凝集していないか(赤血球同士がくっついてしまう状態)や、再生性があるかどうか(赤血球を新たに作ろうとしているか)を確認します。
また、IMHAは他の病気によっても似たような症状が出るため、腹部のエコー検査やレントゲン検査を用いて、腫瘍や出血といった他の貧血原因を除外すること、およびIMHAで起こりやすい脾腫(脾臓が分厚く腫れること)がないかのチェックが必要です。
これらの結果を総合的に判断したうえで、IMHAであると強く疑われる場合は、すぐに治療を開始します。
治療方法
IMHAは免疫の異常によって赤血球が壊される病気であり、いわゆる「完治」することを目指すのではなく、免疫反応を長期的にコントロールしていくことが治療の基本になります。
当院では、以下のような治療を組み合わせて行います。
◆ステロイドや免疫抑制剤の投与
赤血球を攻撃する免疫反応を抑えるために、プレドニゾロンなどのステロイドを中心に、ミコフェノール酸モフェチル、シクロスポリン、レフルノミドといった免疫抑制薬を併用します。
◆抗血小板薬の投与
IMHAでは非常に高い確率で血栓ができるため、リバーロキサバンやクロピドグレルなどの抗血小板薬を使用します。
◆輸血
赤血球が著しく減少し、命の危機に直面している場合には、輸血によって酸素を運ぶ能力を補います。
◆ヒト免疫グロブリン製剤(hIVIG)の使用
免疫反応が強く、ステロイドや免疫抑制剤に反応しない重症例では、ガンマガードなどの製剤を使って免疫暴走を抑えます。
◆脾臓摘出や抗がん剤の使用
すべての治療に反応しない場合には、免疫調整の役割を持つ脾臓を摘出したり、免疫抑制効果を狙って抗がん剤を使用したりすることもあります。
<最新の知見|脾臓への放射線照射という考え方>
近年では、IMHAに対して「脾臓」が関与している点に注目が集まっており、手術で摘出する前に放射線を脾臓に照射するという新しいアプローチも検討されています。
まだ研究段階の方法であり、標準治療として確立されているわけではありませんが、放射線照射によって免疫の過剰な反応が落ち着き、赤血球の破壊が抑えられる可能性があることがわかってきています。
当院でも、このような最新の知見を取り入れながら、選択肢を広げた治療を提案しています。
【実際の症例紹介】Hct6.4%から回復したケース
2025年8月18日、1頭の犬が「ぐったりしている」「一週間前から下痢をしている」「気持ち悪そう」といった症状で来院されました。初診時の身体検査では歯茎が著しく白く、明らかな貧血が疑われました。
血液検査では、ヘマトクリット13.7%、ビリルビン値2.1、CRP12.3と、重度の貧血と炎症の存在が確認されました。エコー検査とレントゲン検査を行いましたが、明らかな出血や腫瘍は見つかりませんでした。血液塗抹検査では球状赤血球やゴースト赤血球が多数確認され、自己凝集反応も陽性。これらの所見から、IMHAと診断しました。
翌日、犬の状態はさらに悪化し、自力で立つことができず、眼振や起立不能といった深刻な症状が現れました。検査の結果、ヘマトクリットは6.4%にまで低下。すぐに緊急輸血を行い、その後も経過を観察しながら8月24日に2度目の輸血を実施しました。
治療にはステロイドや免疫抑制剤、抗血小板薬を併用し、少しずつ赤血球の破壊を抑えていきました。その結果、現在では元気に生活しており、ステロイドの休薬も視野に入るまで回復しています。
このように、重症例であっても、諦めずに治療を続けることで命を救える可能性があることを、私たちは日々の診療で実感しています。
まとめ
免疫介在性溶血性貧血(IMHA)は、非常に進行の早い命に関わる病気です。はっきりとした症状が出る前に急速に悪化することもあるため、「少し様子がおかしいな」と感じた時点での早期受診が何よりも大切です。
当院では、IMHAのような重篤な疾患に対しても、年中無休の救急対応体制を整え、あらゆる治療の選択肢を飼い主様に提示しながら、最後まであきらめずに向き合う医療を提供しています。
大切なご家族の一員である犬の命を守るために、どんな些細な変化でも、まずはお気軽にご相談ください。
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